折れずに

またダメだった。
これ以上の契約は出来ないって。
母が言うにはまだ私の経験値は高校生ぐらいなんだって。
家に閉じこもっていた時期があまりに長かったから。
先生も、今までできなかったことが出来たんだからすごいことよ、って。
当たり前のことを出来るようになったことを誉められるなんて、どこまでダメだったんだって自分でも呆れるけど、今はそのことばにすがらせてほしい。
ここで折れたら昨日一日ふんばったことはなんだったんだ、ってことになる。
焦らずに、次の仕事をみつけたい。
折れずに。

パフューム ある人殺しの物語

f:id:Ave-Materia91311:20160117131322j:plain

なんだかこんな物語を観ると...どんな変態もどんなサイコキラーも(この映画の主人公はこのふたつを兼ね備えています)たったひとつの愛を、平凡なしあわせを願っているところは私たちとそんな変わらないのかな...とか思ってしまう。でも彼を突き動かす衝動が、そうはさせてくれない。それどころか、どんどん遠い場所へと連れていってしまう。
生まれ持った性癖って、才能って難儀やな。
そんな風にサイコな主人公にちょっぴり同情してしまうくらい、私は主演のベン・ウィショーの魅力にすっかりやられてしまいましたよ、はい。
天使と悪魔を同時に表現できる俳優を、とキャスティングされたようですが自分の求めている香りをみつけたとき、あどけない童顔の目にふっと欲望の炎が灯る瞬間があって。怖かった。あぁこれか、と納得してしまいました。
ほとんど裸に近い格好で熱演していたベン・ウィショー。彼の演技力の高さを味わうには良い一本ではないかと思います。
ただ、衛生的にあまりきれいではないシーンがたくさんあるのでご注意を。

しあわせはどこにある

f:id:Ave-Materia91311:20160114042512j:plain

タイトル通り、しあわせとは何かを調べる旅に出る精神科医のお話。
主人公ヘクターは中国、チベット、アフリカ、ロサンゼルスを旅するんだけど、特にチベットの山の中、色とりどりの布地が空を泳ぐシーンが印象的で。
後半に登場するヘクター自身の中にある“色”たちとそのシーンがシンクロすることで、彼の中に“しあわせ”はすでにあったのだと気づかされる。
足りなかったのは、それに気づくこと。
旅に出ることで彼は愛する人や精神科医としての日常と離れ、そこでは会うはずのなかった人々と出会い、一晩の恋を知り、命の危機に遇い、命を救い、ずるずるとひきずり続けていた過去(の、現在)と向き合うことでいちばん大切なものがなんだったのか、その気持ちを取り戻してゆく。
ヘクターが恋人クララにもらったノートの中にはキュートなイラストと旅の中から教わった“しあわせとは”がいっぱい。
個人的に特に心に響いてきたのは“話を聞くことは愛を示すこと”。
聞くことで相手が心をぐんぐん開いてくれることに気づいてから、なるべくそれを実践するように心がけていて。この言葉を聞いたときにマジックのタネがわかったような嬉しい気分になりました。
そんな風に、自分にとってのしあわせとは?に気づくヒントがたくさんつまっている作品だと思います。

恋人たち

f:id:Ave-Materia91311:20160112041712j:plain

今年の映画初めは橋口亮輔監督のこの作品から。
前作「ぐるりのこと」が素晴らしいけれどとても心えぐられる作品で、ちょっとこわごわ観にいったのですが。
とてもやさしい作品だと思いました。
エンドロール、監督の名前も出た後に現れたあのワンシーンのとてもささやかだけどおおきなうれしさ、 あげることができるのも人で、そんな人を見つけたなら全力ですがりたいし信じられる人になりたい、と思いました。
あの、片腕の先輩のような人。
つらい状況下にあるほど死の誘惑は強くなるし誰にもわかるわけがない/わかってくれない、と人から遠ざかりたくなるけどやっぱり人を、あきらめたくない。彼を見ていてそう思った。
あんな人になりたい。とも。
そんな映画を作ってくれる橋口監督のような人がいてくれてよかった。
いろいろあってこの数年は思ったように映画が作れなかったようだけど、監督の作品をこれからもっともっと見てみたいと思いました。
アツシのどんよりと暗いけれど鋭さのあるまなざしが印象的で、街の恋人たちの光景を語るシーンがずっとずっと、脳裏から剥がれてくれない。
人間をうつくしいと思える、そんな瞬間がその姿にはありました。

素晴らしき哉、人生!

f:id:Ave-Materia91311:20160112041413j:plain

私にとってクリスマス・イブは大好きなミュージシャンの命日でもあります。
そんな日にこの映画を観ました。
最初はあまりに古い映画だし少し退屈かなぁ、なんて思いながら観ていたんです。
したら、いろんなことに考えをめぐらしてしまうイブにとても響く言葉が待っていました。
「1人の命は大勢の人生に影響してるんだ。」
「1人いないだけで世界は一変する。」
そうか。彼も。そしてきっと、あなたも、私も。
誰かと自分を比べては消えてなくなってしまいたくなるときが多々あります。
そんなときにまたこの映画を観たい。
そしてベルをみつけたらめいっぱい鳴らしてあげよう。
あのとぼけたおじさん天使の姿を思い浮かべて。

ディオールと私

f:id:Ave-Materia91311:20151217192412j:plain

久しぶりに面白いドキュメンタリー映画を観た気がする。
今は亡きクリスチャン・ディオールが新しいデザイナーを迎えた自身のブランドを語る。このひとさじのフィクションが効いていて、このブランドのことをよく知らない私にも彼らの物語へ入りやすい扉になってくれた。
新しいデザイナー、ラフ・シモンズとお針子たちの共に素晴らしいものを作ろうとするやりとりは実にエキサイティングで、ドレスをラフのもとに持っていこうとする途中にエレベーターが止まってしまう、なんてドラマよりドラマチックな場面にはおもわずハラハラ。
ショーも終わろうとするその時、ラフが見せた涙に彼の重責を知り、心が揺さぶられた。
それにしてもラフの右腕の彼はすてきだったなぁ。
デザイナーとお針子たちの潤滑油となる彼はどこの職場にもひとりは必要な人ですよね。ルックスも内面もイケメンな彼のこころが男性のものだなんて、おばちゃまたちのいう通り至極残念でございます。うふふ。

GF*BF

f:id:Ave-Materia91311:20151217022826j:plain

今年観た映画の中でも特に印象に残ってる一本。
せつない青春ストーリーかと思いきや、主人公3人の物語はみずみずしさ溢れる10代、激動する時代とともに過ごした20代、絡まりすぎた糸がキリキリと音をたてる30代までなだれ込む。
どの役者さんも良かったけれど、きりりとした眼差しが印象的なグイ・ルンメイが特に素晴らしかった、惚れた。
彼女演じるメイバオが傷ついた幼なじみのために髪を刈り上げるシーンの美しさ、自分が愛する男と自分を愛した男がキスをする姿をみつめるあのまなざし、違う人を想いながら互いのパートナーと身体をぶつけあう不毛なセックスシーンのせつなさ。
どの年代にもはっとするようなうつくしさ、胸をキリキリとしめつけるよな痛みが息づいていて、片時も3人(2人、か。)のこころの動きから目を離すことができなかった。
音楽もとても良くて、ラストシーンで流れる3人のそんなあやうい関係性もあたたかく包み込むよな旋律には特にグッときた。
「光にふれる」といい「KANO」といい台湾映画が描く青春はどうしてこんなにも瑞々しく、力強いんでしょう。おばちゃんはもう、その眩しさに完敗です。